大判例

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高松高等裁判所 平成5年(ネ)236号 判決 1994年10月25日

控訴人

坂田武義

外一八五名

右控訴人ら訴訟代理人弁護士

佐藤裕人

安田信彦

古川靖

右控訴人ら訴訟代理人佐藤裕人訴訟復代理人弁護士

松井妙子

被控訴人

株式会社講談社

右代表者代表取締役

野間佐和子

被控訴人

野間佐和子

元木昌彦

森岩弘

佐々木良輔

早川和廣

島田裕巳

右被控訴人ら訴訟代理人弁護士

河上和雄

山崎恵

的場徹

成田茂

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  (附帯請求につき減縮のうえ、)被控訴人らは控訴人らに対し、連帯して各金一〇〇万円及びこれに対する平成四年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

4  仮執行宣言。

二  被控訴人ら

主文同旨。

第二  事案の概要

本件事案の概要は、次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決事実及び理由の「第二 事案の概要」記載のとおりであり、証拠関係は原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決三枚目表七行目の「掲載し」を「執筆・掲載して、出版・広告し」と改め、同行目の「精神的損害」の次に「及び財産的損害」を加え、同八行目の「慰謝料」を「不法行為に基づく損害賠償金(控訴人浅井輝夫、同北野晃司、同湖西十三峰、同武市收古、同谷本陽子、同原喜夫、同広井伸子、同松村洋一、同坂口ムラエは、それぞれ慰謝料五〇万円及び逸失利益(一部請求)五〇万円の請求。その余の控訴人らは、それぞれ慰謝料一〇〇万円の請求。)並びにこれらに対する遅延損害金」と改める。

二1  同三枚目裏一行目の「ものである」の次に「(争いのない事実、弁論の全趣旨)」を加え、同四行目の「被告講談社発行の」を削除し、同四枚目表一行目の「ものである」の次に「(争いがない。)」を加える。

2  同四枚目表三行目の「発行している週刊フライデー等には」を「出版している週刊フライデー、週刊現代及び月刊現代、株式会社日刊現代が出版している日刊現代並びに株式会社スコラが出版しているスコラには、平成三年五月から平成四年五月にかけて、」と、同四行目の「記事が掲載された」を「幸福の科学及び大川主宰に関する合計三五本の記事(うち三四本の記事は平成三年一一月までの半年間に集中して出版。以下、これらを「本件記事」ともいう。)が掲載された(争いのない事実、甲一ないし五、一〇八ないし一三七)」と、同七行目の「三千億」を「三千億円」と、同一一行目の「秀次」を「常次氏」と、同枚目裏八行目の「魔訶不思議」を「摩訶不思議」と改め、同一〇行目の「同月二〇日号、」の次に「同月二七日号、」を加え、同五枚目表一行目の「執筆掲載された」を「八回にわたり執筆掲載され続けた」と改め、同二行目、同枚目裏末行目及び同七枚目表六行目の「週刊現代」の次にいずれも「平成三年」を、同五枚目表五行目の冒頭に「(一)」を加え、同枚目裏二行目の次に、行を変えて「(二) さらに、次のような記事もある。」を加え、同四行目の「プライドが」を「プライドも」と、同六行目の「六月」を「「六月」と、同一〇行目の「。」を「」」と、同七枚目裏一行目の「状況」を「情況」と、同八行目の「K・T誌」を「K・T氏」と、同八枚目表五、六行目の「開いていた」を「開いた」と、同枚目裏八行目の「幸福の科学」を「大川主宰」と改める。

3  同九枚目表七行目の後に、次のとおり加える。

7 週刊現代平成四年六月六日号(被控訴人ら執筆掲載の記事三五本中、最後の一本)には、「被告席から見た『幸福の科学』信者裁判 危険な子供『大川隆法と景山民夫』を斬る」と題する記事が掲載された。

この記事は、東京地裁での本件訴訟同旨の裁判の様子を伝えながら、前記の月刊現代平成三年一〇月号の次の記事を再度転載した。

‥大川の正体はせいぜい落ちこぼれのエリートでしかない。

‥その落ちこぼれエリートと宗教好きの父親という組み合わせが、「幸福の科学」の正体だ。

8 最後に、スコラでは、その平成三年五月二三日号で、「読めば読むほど疑問続出 二二〇〇万部を売った大ベテトセラー作家大川隆法『幸福の科学』のいいかげん度とバカバカしさ東大出身の教祖はいったい何が言いたいのか」と題する記事が掲載された。

本文では、要旨次のような内容の記事がある。

「偏差値界の最高峰」東大出身の教祖の宗教が「マルチ商法ばりの驚異的スピードで急成長中だ」。

その秘密は、大量に出版された大川主宰の書物と、正会員になるためには一〇冊の大川主宰の書籍を読まなければならないシステムにある。

しかし「幸福の科学」増殖ぶりの秘密が大川の本であるにしても、その本に魅力がなければ、この忙しい世の中で決して一〇冊の本を読む気にはならない。

たが、この本をどう読んでも、夢中になって読むほどの魅力があるとはとうてい思えない。それどころか、何が言いたいのかさっぱりで、首をかしげる箇所が続出なのだ。

ひとつの鍵は「幸福の科学」が‥試験制度を導入している点にあるように思える。

熱心な会員は必死になって上にあがろうとし、大川隆法の本を買い、勉強しているのである。

三1  同九枚目表九行目の「あたるか」を「当たるか否か」と、同末行目の「彼ら」を「控訴人ら」と、同枚目裏六行目の「に貫かれた」を「を貫いた」と改める。

2(一)  同一〇枚目表七行目の「原告」から同行目末尾までを「控訴人らに対する不法行為の成否。」と、同九行目の「被告講談社らが週刊紙」を「被控訴人講談社並びにその子会社である株式会社日刊現代及び株式会社スコラがそれぞれ出版する週刊誌」と改め、同枚目裏五行目の「人格権とは、」の次に「信仰生活における」を加え、同一一枚目表一行目の「強固でない」から同三行目末尾の「主張する」までを「強固でなく、単なる法的利益に止まるとしても、本件記事の執筆・掲載・出版・広告行為(以下「出版行為等」という。)の侵害性は強度であるから、本件記事の出版行為等には違法性が認められ、不法行為が成立する」と改める。

(二)  同一一枚目表三行目の後に、次のとおり加える。

また、仮に、宗教上の人格権なる概念が認められないとするならば、被侵害利益としてプライバシー権を主張する。

さらに、控訴人らは、被控訴人らの捏造・誹謗中傷記事により、幸福の科学の会員としての名誉及び伝道の自由を侵害された。

(三)  同一一枚目表四行目の「被害」の次に「・損害」を加え、同末行目の「などと捏造」を「などという捏造」と、同枚目裏一一行目の「誹謗記事」を「誹謗中傷記事」と、同一二枚目表三行目の「経営」を「会社経営」と、同六、七行目の「、これにより精神的被害を被った事例」を「たことによる精神的損害及び財産的損害」と改める。

3  同一二枚目裏三行目を次のとおり改める。

本件記事の出版行為等は、被控訴人らが共謀の上で行ったものである。そうでないとしても、被控訴人らの各行為には、客観的関連共同性がある。

第三  争点に対する判断

一  本件訴えは訴権の濫用に当たるか否かについて(本案前の争点)

当裁判所も、本件訴えは訴権の濫用に当たらず、適法な訴えであると判断する。その理由は、原判決事実及び理由の「第三 争点に対する判断」の一項(原判決一二枚目裏八行目から同一三枚目表五行目まで)に記載のとおり(ただし、原判決一二枚目裏八行目の「執筆、掲載及び出版行為」を「出版行為等」と、同九行目の「人格権」を「人格権等」と改め、同行目の「精神的損害」の次に「及び財産的損害」を、同一一行目の「内容も」の次に「、不法行為法秩序による保護救済を前提として被控訴人ら各自の責任を追及しようとするものと窺えうるから、」を加える。)であるから、これを引用する。

二  控訴人らに対する不法行為の成否について

1 本件で控訴人らが加害行為として主張している本件記事の出版行為等は、いずれも幸福の科学及び大川主宰に関する記事であるから、その直接被害者は幸福の科学及び大川主宰であって、控訴人らは間接被害者に該当するというべきところ、直接被害者の損害以外に、すべての間接被害者の損害(以下、「間接損害」という。)についてもその損害賠償を一般的に認めることになれば、その被害者及び損害が不当に著しく拡大され、加害者に過大かつ予測不可能な負担を課することとなって、損害の公平な分担という不法行為制度の趣旨に照らして妥当でないと考えられるので、間接被害者は、その間接損害につき、原則として不法行為に基づく損害賠償請求ができず、例外的に、民法七一一条に基づき慰謝料請求をする場合、その他、直接被害者との人的結びつきが深く、固有の連繋性により直接被害者と社会経済的に一体関係がある場合で、かつ、直接被害者への損害賠償のみでは償いきれないものがあって、間接被害を認めることが相互の公平に合致する場合に限ってその請求ができるものと解するのが相当である。

ところで、控訴人らは単に幸福の科学の正会員であり、大川主宰を信仰の対象としているというものであるから、控訴人らは、民法七一一条の場合にはもちろん、直接被害者と社会経済的に一体関係にある場合に該当するものともいい得ず、その他、控訴人らが右各場合等に該当することを認めるに足りる主張・立証はない。そして、控訴人ら主張の被侵害利益の内容及び程度からすると、直接被害者への損害賠償以外に、間接損害の賠償をしなければ償えないものがあり、公平を害するとはいい難いものと認められる。

以上によれば、控訴人らの本訴請求は、間接被害者による損害賠償請求の認められる場合に該当するものではない。

2  仮に、そうでないとしても、控訴人ら主張の権利ないし法的利益の侵害は認められない。その理由は、次のとおりである。

(一) 本件出版行為等により宗教上の人格権が侵害されたとの主張(争点二項1記載の具体的な被害・損害の様態第一及び第二)について

控訴人らは、まず、本件記事の出版行為等により控訴人らの宗教上の人格権が侵害された、と主張する(なお、控訴人らは、被侵害利益としてプライバシー権をも主張するが、その内容は宗教上の人格権を言い換えたものにすぎないので、同一のものとして、ここで同時に判断する。)。そして、控訴人らは、宗教上の人格権とは、信仰生活における「他者から自己の欲しない刺激によって心を乱されない利益」、「心の静穏の利益」をいう、と主張する。しかし、控訴人らが主張する宗教上の人格権なるものは、実定法上の根拠を欠くのみならず、その権利ないし法的利益の内容が極めて個別的、主観的なものであって、客観的普遍的に把握し得るような一義性、明確性を有せず、その本質は、控訴人らがそれぞれの持つ単なる宗教的感情の攪乱、不快感等を云々するにすぎないものであるところ、言論その他表現の自由により他者の信条や宗教を批判する自由が保障されている現行憲法の下においては、ある宗教が批判されることにより当該信者の信仰生活における心の静穏が侵されることは法律上も予定するところというべきであるから、これをもって直ちに不法行為における被侵害利益として認めることはできない(もっとも、加害者が直接的な方法により被害者の宗教活動を積極的に禁止・妨害するなど、その侵害行為の様態・程度が社会通念上許容し得る限度を超えて被害者信教の自由を侵害した場合には、不法行為が成立する余地があるが、控訴人らが本訴において宗教上の人格権の侵害として主張するものは、右にいう場合に当該するものではない。また、本件記事の出版行為等も右にいう社会通念上許容し得る限度を超えた侵害行為に該当する内容のものではない。)。

そうすると、宗教上の人格権が侵害されたことを理由とする控訴人ら主張の被控訴人らの出版行為等には、違法性が存しないものというべきである。

(二) 本件記事を読んだ第三者との関係により精神的損害及び財産的損害を受けたとの主張及び伝道の自由を侵害されたとの主張(争点二項1記載の具体的な被害・損害の様態第三ないし第七)について

控訴人らは、本件記事を読んだ家族、友人、知人等がその記事の内容を信じたため、控訴人らに精神的損害及び財産的損害が発生し、更に伝道の自由が侵害されたことにより精神的損害が発生した、と主張するが、証拠(甲一三八ないし一四二、二〇四ないし二一六)によれば、控訴人ら主張のこれらの損害は、結局、家族、友人、知人等の第三者それぞれの自由意思による独自の判断によりなされた行為によって発生した損害をいうものであることが認められる。しかし、言論及び出版の自由等にかんがみると、本件記事が、右第三者を教唆・煽動するものでない限り、本件記事の出版行為等と控訴人ら主張の右各損害との間には相当因果関係が認められないものというべきところ、本件記事によって、右教唆・煽動がなされたとの主張・立証はない。

そうすると、本件記事の出版行為等と、本件記事を読んだ第三者の行為により発生したとする控訴人らの精神的損害及び財産的損害並びに伝道の自由を侵害されたことにより発生したとする控訴人らの精神的損害との間には、相当因果関係がないことになる。

(三) 本件記事により控訴人らの名誉が侵害されたとの主張について

控訴人らは、本件記事により控訴人らの名誉が侵害された、と主張するが、その主張するところは、幸福の科学の会員の立場において名誉が侵害されたというものであって、控訴人ら各人固有の個人的名誉が侵害されたというものではないから、名誉毀損の被害者は特定されておらず(その主張する名誉自体漠然としたものであって、むしろ、控訴人らのいう宗教上の人格権と同視すべきものであろうとも考えられる。)、これをもって不法行為における被侵害利益に該当する名誉として認めることはできない。

そうすると、名誉が侵害されたことを理由とする控訴人らの本訴請求には、違法性が存しないこととなる。

3  以上によれば、控訴人らの本訴請求は、いずれにしても、理由がなく、棄却されるべきである。

第四  結論

よって、原判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官砂山一郎 裁判官一志泰滋 裁判官渡邉左千夫)

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